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とある電光の調和学術 【本文】 序章 追うものと追われるもの 狙うものと狙われるもの 第一章 殲滅予告 【初出】 2010/05/29 【著者】 【含有】 【あらすじ】 【解説】
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いつもの路地裏、その更に奥に位置する拠点へと小柄な少女は歩みを進めていた。 彼女が胸に抱くのは大きな喜びと少しばかりの焦燥感。 要するに彼女は、拠点へ着くのが楽しみだった。憧れのあの人がそこで待っているから。 「四方さん、もういるかなぁ…。えへへ、二人っきりになれたりしたら良いなぁ」 彼女の名前は「江向 香」チャイルドデバッカーに所属する中学二年生の少女である。 歳相応の小柄な体と柔和で可愛らしい顔つきは、この裏路地にはとても似合わない。 それに対してその性格は…やっぱりこの場に似合わない優しく温和な性格だった。 ならば、なぜ彼女がこの組織に所属しているのか?それは彼女自身の為と言うよりは他人の為の側面が強い。 学園都市に挑む仲間達の為、そして苦しめられる子供達の為。 もちろん彼女自身が研究者を恨んでいるからという理由もあるが。 江向「あれ、なんだか騒がしいですね。誰が来てるんでしょうか…?」 と、疑問を口にすると同時に拠点の中から大きな声が聞こえた。 「はっはっはっー!いやーすまんすまん!」 江向「ひっ!び、びっくりした…」 驚いて思わず物陰に隠れる。どうやら誰も私に気付いていない様だ。 江向「…何で私隠れてるんだろ」 べつにやましい事がある訳じゃないんだから堂々としてればいいのに… ともかく物陰から様子を伺ってみると、背の大きな男の人の姿が見える。 あれは確か… 江向「あ、朱点さんだ…」 そこの居たのは、表側のデバッカーのリーダーである朱点さんだ。 私も最初は表側の組織に居のだが、その頃に色々と世話をしてくれていたから覚えている。 最も、私が表側に居たのは極僅かの間だが。 他に見える人影は… 「何なのよこの男!馴れ馴れしいったらありゃしないわ!」 女の人の後ろ姿が見える。あの長い茶髪は吉永さんだ。 とても綺麗な人で性格もかっこいい。男の人が苦手なのが欠点だけど。 江向「今日もたくさん人が来てるなぁ。二人っきりになるのは無理そう…」 でも、もし四方さんと二人きりになったら… あれがこうしてこれがああであんなことになっちゃったりしてー! と、目を離して妄想に浸っていたのがいけなかった。自分に近づいてくる姿に気付かなかったのだ。 前方から来た大男に声を掛けられる。ってか、朱点さんじゃないですか!私そんなのに長い事妄想してたんですか!? 朱点「むー?君は江向かー?何でそんなとこに隠れ…」 江向「わー!何でも無いんです!本当です!」 朱点「む、それならいいんだがー」 なぜ私はここまで必死に誤魔化しているんだろう…。 と、ともかくこの場から離れる為には、この人について行く方が良さそう。 江向「あ、朱点さんお帰りですよね!お送りしますよ!」 朱点「おー!気が利いているなー。それじゃあお願いするぞー」 うう…。私は四方さんに会いに来たのにいつの間にかこんな事に。 でも、そんな言い方したら朱点さんに悪いですね! 自分で言い出した事だし、ちゃんと朱点さんを送っていかないと… ***とある猫娘達の日常 3話 江向香のとある憧憬******** とにかく、ここに居るとボロが出ちゃいそうだし朱点さんを送って出直す事にしましょう。 なんだか朱点さんをダシに使うみたいで申し訳ないですけど…。 江向「それじゃあ行きましょう。路地裏の出口までですけど」 朱点「それで構わんさー。それじゃあ案内よろしくなー」 彼を引き連れて路地裏を歩き始める。この付近ではスキルアウトに絡まれる事は無いだろうが 一応は無法地帯だ。二人のほうが安心だろう。 朱点「江向はー…、裏でもうまくやってるのかー?」 唐突に声を掛けられる。急な質問だったのでしどろもどろになりながらも返答する。 江向「え、えっと…。はい、とりあえずはうまくやれてる…と、思いますけど」 朱点「そうかー…。急に裏に行きたいだなんて言い出すから心配していたんだー」 基本的には表のメンバーは裏の存在を知らない。 表のメンバーで裏組織の存在を認知しているのは朱点さんだけだった筈だ。 私が裏の存在を知ったのは偶然の産物だったし… 江向「あの時は急な事をいってごめんなさい。でも、居ても立ってもいられなくって」 朱点「いやー、俺の事を気にする必要はないぞー。命の危険がある事だからオススメは出来なかったがなー」 裏組織の存在を知りそちらへの移動を朱点さんに訴えた時、彼は必死になって私を止めようとした。 必死の説得を受けた私だったけれど、心は変わらなかった。 江向「ホントにごめんなさい。でも、私達が平和に暮らしている裏で戦っている人がいるなんて知ったら もう無視なんて私には出来なかったんです」 朱点「…何とも、江向らしいなー。本当に優しい子だ」 江向「そんな…。それに、皆は確固たる理由があって戦ってるのに私はいつまでも他人の為ばかりで…」 そうだ。私はいつだって人の事ばっかりで、自分が無い。 自分の為に何かをする、という発想にいたらないのだ。 朱点「おかしな事をいうなー。普通は自分のためではなく、他人の為に動ける事が美徳だろー」 江向「そうなんでしょうか…。自分の為の理由があって初めてこの生き方に自信が持てると思うんです」 朱点「自信かー。そもそも、お前は仲間を護る為に戦っているのだろー?その中でも特別に思ってる相手とかいないのかー? …その人に怪我をして貰いたくない、失いたくないと言うのはある意味自分の為とも取れるんじゃないかー?」 江向「え、特別…?」 その時、頭を過ぎったのは他でもない四方さんの姿だった。 四方さんを護る為に…。それは確かに私自身の為と言えるかも知れない。 朱点「その表情、どうやら江向には意中の相手がいるようだなー!はっはっはっ!隅に置けんなー!」 江向「ちょ、ちょっと!そんなんじゃないですよー!」 そ、そんなのじゃないよね?私の気持ちは、きっと尊敬だよね!お、女の子同士だし… 朱点「照れるな照れるなー!それで、それは一体誰だー?俺の知ってる奴かー?」 江向「え、えー。言わなきゃいけませんか…。えーと。四方さんですよ。私、あの人を尊敬してて…」 なんですか、この微妙な気恥ずかしさ! こ、これじゃあまるで好きな人を暴露してるみたいじゃないですか! 朱点「四方かー。はっはー。それはまた護り甲斐のある相手だなー。誰かに護られるタイプでは無いなー」 江向「ですよね…。そんな頼りになる四方さんを尊敬しているのに、それだと助けになれないっていうジレンマが…」 朱点「はっはっはっー!深く考える事は無いさー。アイツにも弱点はある。あいつは目の前で人が死ぬのを異様に怖がっている」 江向「ああ…、そうですね。四方さんって、敵の命も助けようとしてますもんね」 『死ぬな、殺すな、死なせるな』 作戦の前に彼女はこんなセリフを呟く。誰にも気付かれない様に、自分へ言い聞かせるかの様に。 私はいつでも彼女を見ていました。だからこそ気付けた事。 その言葉を呟く彼女の顔は、無表情に見えてどこか…悲しくて。 どんな極悪非道な敵を相手にしても、彼女は命を奪わない。それどころか相手の命を助けようと行動する事もある。 最初はただ単に、敵味方に関わらず命を大事に思うからこその行動だと思っていた。 でも、その時の彼女の顔を見て、正義感や命を重んじる思いやりと言うよりは、何だか脅迫観念じみたものを感じたのだ。 その事について彼女なりの理由がある事は察しがついていたが、その内容は怖くて聞けなかった。 踏み込んではいけない領域のような気がして、きっとそれは知るべきではない事なのだと確信できたから。 朱点「アイツは弱点の無い様に見えて脆い奴だー。そのモットーもアイツにトラウマから生まれた物らしいしなー」 江向「トラウマ、ですか。何があったんでしょう…?」 朱点「それは知らないなー。そこは頑なに話したがらないんだー」 江向「…弱みは見せたく無いのかも知れませんね」 普段から彼女を見ているからよく分かる。四方さんは過剰なまでに弱みを見せる事を嫌っている。 常に頼れるリーダーであるように心がけているのが見て取れる。 そんな四方さんは、時に酷く危なく見える。そんな事を思っているのは私だけなのかも知れないけれど。 朱点「逆に言えば、その言いつけを破ればアイツは悲しむー。それを未然に防いでやる事も、アイツを護ってるとも言えるだろうさー」 護る…か。そうだ、彼女を脅かす危機から、私が直接護るなんて事はきっと出来ない。それは、私の役目ではない。 でもやり方は幾らでもある。朱点さんが言ったのも、つまりはその中の一つ。 江向「護る方法…か。なるほど。何だか、気持ちが軽くなった気がします! 朱点さんはやっぱり暑苦しいけど優しいです!ホントに見た目からは想像つかないです!」 朱点「はっはー!えらく笑顔で毒を吐くなー。それは無意識で言ってるのかー?」 江向「え、あ!ご、ごめんなさい!そういうつもりじゃあ無いんです!」 暑苦しいとか言ったら失礼だよね。次から気をつけなきゃ! 朱点「まあ良いけどなー。…慣れてるしー(ぼそっ。おっと、出口に着いたぞー。見送りありがとなー」 江向「あ、ホントだ。なんだかすいません。逆に気を遣わせてしまって」 朱点「俺達は仲間だー。相談事ならいつでも受け付けてるさー」 江向「はい!気をつけてお帰り下さい!」 じゃーなー!達者でやれよー!と手を振りながら去っていく朱点さん。 しかしその別れ際の声もやはり声が大きい。あの暑苦しさが無ければ初対面の人でも親しみやすい良い人なのになぁ。 江向「はっ!そういえば早く拠点に戻らないと」 でも、朱点さんと話せたおかげで何となく悩みも晴れたし、付いてきてよかったかな。 …あの場から離れる手段みたいな扱いしてゴメンナサイ…! そして再び拠点の前に戻ってきた訳だけど… 今度こそ普通に入らなきゃ!って、誰か出てきた。あれは… 「あれ、江向っちじゃね?入り口で立ち止まってどうしたの?」 江向「い、入場さん。何でも無いですよ?今ちょうど入ろうとした所で…」 それは同じくデバッカーに所属する仲間、入場さんだった。 相変わらず見た目はかっこいいなぁ。 入場「そっか。今、中には四方っちと瞳ちゃんと、あと吉永がいるよ」 江向「え、焔さんは居ないんですか?いつも四方さんにべったりなのに」 基本的に四方さんの隣にはいつも焔さんと瞳ちゃんがいる。 四方さんと二人っきりになれるチャンスが来ないのはだいたいこれが理由である。 入場「風邪らしい。それでも来るって聞かなかったらしいが、四方っちが無理やり寝かせたらしい」 江向「あはは…。焔さんらしいというか何というか…」 けれど、彼女の明るい所なんかはとても感心できる。 彼女の人となりはとても大好きで、個人的に仲良くしたいと思っているくらい。 恋敵ではあるけれど…って、恋じゃ無いし! 入場「寝かせた、っていっても力ずくだろうけどな。言って聞く奴じゃないだろうし」 江向「ただの風邪といっても馬鹿にはできませんし。ゆっくり休んで貰った方がいいでしょうね」 焔さんはあまり自分の身を案じない所がありますし、少し心配になる。 正直四方さんにべたべたくっ付いている彼女を見てると黒い感情が湧く事もありますが、 基本的に彼女は良い人ですし、仲良くしたいと思える相手です。 入場「そういうこった。ただでさえ奴は主力なんだ。こんな事で戦力を失う訳にもいかんだろ」 江向「そうですね…。でも、よく考えればこれだけの高位能力者が集まってるのって異常ですよね…」 言葉に出して、改めて自分のいる世界が異常な場所なのだと自覚する。 逆に言えば、ここまで異常な人たちが集まって初めて成り立っている場所なのだという事。 入場「まぁ、確かに。四方っちを筆頭に焔っち、吉永、粉原、俺、と5人も大能力者が揃ってるしなぁ」 江向「瞳ちゃんの能力の強度は分からないんでしたっけ?」 入場「そうだな。システムスキャンを受けてないみたいだし。でも、かなり強力な能力っぽいけど」 江向「私、いまいち瞳ちゃんの能力って分からないんですよね。って、あ…」 気付けば私は出口に向かって歩く入場さんについて歩いていた。 今度こそ拠点に行くつもりだったのにまた寄り道してるよ私。 でも今更話を切り上げるのも悪いし、とりあえずは出口まで送っていく事にしよう 入場「ん?どうかしたの、江向っち」 江向「い、いえ、何でも無いです。瞳ちゃんはいつもサポートしてくれてますけど、原理はいまいち…」 誤魔化しついでに気になっていた事を聞いてみる。 入場さんはいろんな人とよく話してるし、知ってるかも… 入場「俺も詳しくは知らん。けど、四方っちが言うには『人の悪意を見つける力』だとか」 江向「悪意、ですか?」 なんだか抽象的すぎてよく分からない様な。 悪意…、怒りとか悲しみとかも入るのかな? 入場「ん。あんまり話したがらないみたいだけど、瞳ちゃんは声が出せない以外にも色が見えないっていうハンデがあるんだ」 江向「色が見えない…」 そうなんだ…。そういえば、そうと思われる場面も多々あった気がする。 この話を聞いてやっと思い当たるくらいだから殆ど気付かなかったのだろうけど。 入場「色覚障害って奴だな。でも、そんな瞳ちゃんにも見える色がある。それが人の悪意って事」 江向「なるほど、それで瞳ちゃんはあんなに正確に敵の奇襲や居場所を察知出来るんですか」 入場「そういう事。それで樹堅の作ったソフトを使って瞳ちゃんの見てる視覚情報をモニターに表示して、ナビゲートしてる訳だ」 江向「でも、あの二人って拠点にいますよね?瞳ちゃんは現場の様子をどうやって見てるんですか?」 その場に居ないのに人の悪意が見えるのだろうか? でもそれって、すごく疲れそう。人の悪意を見つづけるなんて、私なら心が壊れてしまいそうだ。 入場「あー、四方っちによれば瞳ちゃんの能力は射程がえらく特殊らしくてな。あの拠点からでも普通に見えてるらしい」 江向「すごい範囲ですね…。受け取る事しか出来ないタイプとはいえ、そんな範囲をカバー出来るのは大能力者レベルなんじゃ…」 瞳ちゃんが今システムスキャンを受けたらどうなるんだろう? 彼女まで大能力相当だとしたら、この組織ほんとにすごいよね… 入場「いや、単純に範囲が広い訳では無いらしいよ。どうも誰かを『凝視』してるとその人が視界から外れても見続けられるとか、その人を中心に更に周りの悪意を感じ取れるとか、そういう能力の応用の仕方をしてるらしい」 江向「ああ、成程。作戦の時は潜入班の人を凝視してるって訳ですね」 入場「そういう事。おかげさまで俺達は作戦の時、情報面においてかなりの有利にたった状態で敵に挑めるって事」 江向「デバッカーのNo2と言われてるのも分かりますね…。ただのマスコットでは無いんですね」 かわいいだけじゃないのがすごい所ですよね!あの年なのに… 入場「…何気に酷い事言うのな、江向っち。まあ、確かにマスコットの役割も十分に果たしているとは思うけども」 江向「あ、そういうつもりでは!ち、違うんですよ!」 褒め言葉のつもりだったのに…。今思えば酷い言い様だったかも! 入場「ははは。まあもう慣れたけどな。無意識で毒を吐いてるみたいだし、流石は『天然毒』だな」 江向「な、なんですか天然毒って!私そんな呼ばれ方してるんですか!?」 入場「能力で敵の装備を溶かす様!そして敵仲間問わずに心を折りに掛かるその毒舌!しかも無自覚!」 そ、そんな!そこだけ聞いたらとんだ嫌な奴じゃないですか! 江向「能力はともかく、そんなに毒舌じゃないですよ!」 入場「そういう所が天然毒の天然たるゆえんなんだけどな」 江向「うう…。納得できないです…」 自覚が無いのにここまで言われるなんて、理不尽です… 入場「口調は丁寧なのになぁ。思ってる事そのまま言ってるんだろうな」 江向「そういう入場さんだって!普段からへらへらと軽口ばかり言って!節操も無く女の子とかに手を出してる癖に!」 入場「うん?もしかして嫉妬かい?ははは、江向っちはかわいいなぁ」 江向「溶かしますよ?」 入場「ごめん。それはシャレにならない」 ホントにもう!女にだらしない所が入場さんの悪い所です! 江向「全くもう…。四方さんと言い、入場さんと言い。節操が無さ過ぎますよ!」 入場「いや、俺はともかく四方っちは違うんじゃ…。四方っちに近寄るメンバー考えてみ?」 江向「ええと、まず瞳ちゃんに焔さん。あと、血晶赤さん…?」 入場「小学生、変態淑女、そして訳の分からん狂気じみた女、しかも敵」 うわぁ…。そうやって聞くと苦労してるなぁ、四方さん。 江向「言われてみれば、明らかに変な人ばっかり…」 入場「プラス、天然毒(ぼそっ」 あれ?いま、入場さんが何か言った様な… 江向「何か言いました?」 入場「いいや何も。四方っちも大変だなぁ、って話。いくら俺でも四方っちは口説けないわー。怖くて」 江向「口説かないで下さいよ?」 もし四方さんを口説いたりするようなら…手を考えなきゃいけませんね… 入場「口説かないよ。自分の身がかわいいからね」 と、話題が終了したと同時に路地裏の出口にたどり着いた。 ここを通るのも今日は三回目だ。なぜ私は同じ場所を行ったり来たりしてるんだろう… 入場「おっと、出口みたいだな。そんじゃ、江向っち見送りありがとね」 江向「あ、はい!気をつけて行って来て下さい!」 入場「ありがとう。江向っちは何だかんだ気の利くいい子だよね」 どうやら褒めてくれたらしい。なので軽い冗談で返してみる事にする。 江向「あはは。気の多いのに何だかんだ恋が実らない入場さんに言われても…」 入場「ぐっ!今のは心に刺さったぞ…」 江向「え、今何か刺さる様な事いいましたか?」 入場「…いや、何でもないよ」 天然毒…恐るべし、だとか何とか言いながら入場さんは去っていきました。 何か悪い事言ったかなぁ? 江向「はっ!そんなことより、今度こそちゃんと拠点に行かなくちゃ!」 ―――――そしてこの『そんなことより』発言である 江向「いい加減誰かが出てきても付いていかないようにしなくちゃ!」 だが、そんな決意とは裏腹に次は後ろから声が掛かった。 勢いよく振り返り、とりあえず何となく威嚇してみる。 江向「つ、次は誰ですか!もうホイホイ付いていったりしませんよ!」 四方「うん?いきなり何を言ってるんだ江向」 江向「へ…?し、四方さん!?どうしてここに!?」 え、え!そんな!よりによってこのタイミングで四方さんが出てくるなんて! 四方「どうしても何も…。ここは拠点の前だし、私が居てもおかしくは無いだろう?」 江向「そ、そうですよね!私ったら、な、何言ってるんでしょうかねー?あはは…」 四方「落ち着け。そんなに慌てなくたって良いだろう」 そう言って私の頭を撫でる四方さん。あれ?頭を撫で…て、、、 江向「し、しししし四方さん!?あ、あた、ああ頭、なで、撫でててて」プルプル 四方「ど、どうした江向、そんなに震えて。もしかして頭撫でられるのは嫌だったか?」ナデナデ 江向「そ、そんな事無いです!むしろ、もう少し撫でてて下さぃ…」 計算外だったけど、頭を撫でてもらえるなんて…。何か、どきどきする…。 四方「くっくっくっ。よく分からない子だな、ほんと」ナデナデ 江向「ふぁぁ…」 四方「よしよし」 江向「えへへ…、って四方さん!どかに向かう途中だったんじゃあ…」 ホントはずっと撫でて貰いたいけど、それで四方さんの邪魔をする訳にはいきません! 四方「おっと、そうだった。焔の見舞いに行ってやろうと思ってね」 江向「あ、焔さん大丈夫なんですか?風邪だって入場さんが言ってましたけど」 四方「ああ、大した事は無いだろうさ。名前の通り不死身みたいな奴なんだからさ」 江向「不死身…、富士見だからですか。あはは、相変わらず面白い親父ギャグを言いますね」 ちょっと駄洒落っぽいけど、四方さんの言う事は面白いから好きだ。 こういう言い回しをしてる時の四方さんは、何だか楽しそうで少しだけ子どもっぽい印象を受ける。 四方「ま、また親父ギャグって言われた…。あれ?」 江向「四方さん?どうかしたんですか?」 何故か一瞬顔を顰めた四方さんが不意に顔を拠点の方向へと向ける。 何か聞こえたのかな…?私には聞こえなかったけど。 四方「いや、少し面白い話が風に乗ってきたんでね。ちょっと気になっただけさ」 江向「面白い話…?」 四方「気にする事は無いさ。それじゃあ、私はそろそろ見舞いに行くよ」 江向「あ、はい。気をつけて行って来て下さい!」 四方「ん。君も気をつけて」 そう言って去っていく四方さん。その背中を見送りながら、私は今度こそ拠点へと向かう。 あれ?そもそも私が拠点に行こうとしてたのって四方さんに会うためじゃあ… って!四方さんを一人で行かせたら意味が無いじゃないですかー! 折角二人きりになれるチャンスだったのに!今からでも追いかけないと… ダッシュで四方さんが向かった方向へ引き返す。今ならまだ間に合う筈…! 「視歩ちゃーん!会いたかったのぉー!」 と、その背中が見えたの同時に反対方向の曲がり角から大きな声が聞こえた。 それは風邪で休んでいるはずの焔さんだった。 四方「ほ、焔!?風邪なんだから寝てろといっただろ?」 焔「風邪なんかもう治ったの。あ、もしかしてお見舞いに来てくれる所だったの?」 四方「そのつもりだったんだけどね。…うん、熱は下がってるみたいだ。でも、出来れば今日くらいは寝てた方がいいんだけど…」 あ、焔さん…。風邪治ったんだ。それは良かったんだけど… 江向「出来れば、今日は休んでて欲しかったな…」 なんて、そんな事を少しでも思ってしまった自分が嫌になる。 何だか今日はうまくいかない。朱点さんには励まされちゃうし、入場さんにはからかわれるし…。 気分が落ち込んできちゃった…。駄目だなぁ、私。 焔「あ!香ちゃんなの!おーい、香ちゃーん!」フリフリ 四方「あれ?江向、君はさっき拠点の方に行ったんじゃ…」 江向「あ…。ごめんなさい、体調が悪くなっちゃったので、先にあがらせてもらいます」 焔「え!?大丈夫、香ちゃん?」 こんなに心配してくれてる焔さんを、少しでも邪魔だと思ってしまうなんて…。やっぱり私最低だ… 江向「はい…。でも、ちょっときついのでこのまま家に帰ろうと思います」 四方「送って行こうか?一人だと危ないかも…」 江向「大丈夫です…。家、近いですから」 そう言って歩みを進める。なんで私不機嫌になってるんだろう。またも、自分で自分が嫌になる。 今日は帰ってそのまま寝よう… 焔「大丈夫かな?何だか様子がおかしかったの…」 四方「……………………」 焔「視歩ちゃん?」 四方「…いや、本人が大丈夫だって言ってるんだ。とりあえずは様子を見よう」 焔「視歩ちゃんがそう言うなら…」 ~~~~~~江向の部屋~~~~~~ …何だか体が重い気がして、目が覚めた。 体を起こすとそこは見慣れた天井。ここは私の部屋で、私のベットの上だ。 ああ、そっか。あの後、家に帰ってきてそのまま寝ちゃったんだっけ? 江向「今、なんじ…?私どのくらい寝てたんでしょうか…」 四方「今は午後四時半。そうだな…大体三時間くらいは寝てたんじゃないかな」 江向「そぉですか…。ふぁぁあ…三時間も寝ちゃったんだ」 四方「まあ、調子も良くなかったみたいだし仕方が無いよ」 江向「あ、ありがとうございます…?」 でも、目覚めたら四方さんが横に居て看病してくれてるなんて夢みたい………え? 江向「な、なななななななな…!」プルプル 四方「うん?どうかしたかい、江向」 江向「なんで四方さんがここに!?っていうか、何してるんですか!?」 瞳「……………………(私もいるぞ!)」 江向「あ、瞳ちゃん。…なんで私のお腹の上にいるの?」 なんか重たいと思ったら瞳ちゃんが乗ってたんですね。 って、そうじゃなくて! 江向「わざわざ看病しにきてくれたんですか…?」 四方「うん。別れ際、何だか様子がおかしく見えたからね」 瞳「……………………(視歩に連れてこられた)」 江向「そういえば何で私の家の場所を?」 四方さんに家の場所を教えた覚えは無いし、連れて来た事も無かったはず… 四方「その為に瞳を連れて来たんだよ。瞳の能力については入場あたりから聞いてるんだろう?」 瞳「……………………(私をレーダー代わりに使うとは…ぐぬぬ)」プクー 四方「なんだ、瞳。お前もノリノリで協力してくれた癖に」 瞳「……………………(あ、ばれました?)」テヘペロッ 江向「ああ、そっか…。私の心を見て場所を見つけたんですね」 四方「そういう事。それと、鍵くらいは掛けといたほうが良いよ。すんなり入れたから良かったけどね」」 江向「あ、そういえば…。すいません。次は気をつけます」 次は四方さんにまでこんな心配かけちゃった。本当に今日の私はダメダメだなぁ。 あー、また気分が沈んできた…。 瞳「……………………」ヨシヨシ 江向「あ…慰めてくれてるの?」 瞳「……………………」コクコク 四方「何を落ち込んでるのかは知らないけど、偶にはゆっくり休むと良い。普段から江向は頑張ってくれてたからね」 江向「わ、私が頑張ってる…?」 四方「そう。他の連中はすぐ無茶するからね。周りを気遣ってフォローしてくれてる江向には助けられてるよ、いつも」 江向「あ…。そ、そうですか。ありがとうございます」 そっか…。私のやってる事、少しは助けになってたんだ。嬉しいな…。 あ!今、朱点さんの言ってた事が分かったような気がする。四方さんが喜んでくれてる顔が、すごく嬉しい。 これが他人の為でもあり、自分の為であるって事なんですね。 …私も、これで少しは自信がつきそうな気がします。 瞳「……………………(少しは落ち着いた?)」 四方「すこしは吹っ切れたかい?」 江向「はい!元気、出ました!ありがとうございます!」 四方「なら、来た甲斐があったかな」 瞳「……………………(私も頑張ったよ!)」ピョンピョン 江向「い、痛い痛い。分かってるから私の上で跳ねないで…」 四方「こらこら瞳。そろそろ降りないと江向が苦しそうだろう?」 瞳「……………………(残念)」ズコズコ 江向「あはは…。でも、ありがとう。瞳ちゃんのおかげで元気が出たよ」 瞳「……………………(どういたしまして)」ニコッ 瞳ちゃんと四方さんを見ていると、何だか姉妹みたいで微笑ましいなぁ。 なんて事を思いながら、ふと気になったことを言ってみる。 江向「あ…。そういえば、四方さんって私の事を江向って呼びますよね?」 四方「ん?ああ、そうだね。何か問題があったかな?」 瞳「……………………(鈍いなぁ。察してあげないと)」 江向「え、えーと…。か、香って呼んでくれませんか?」 言ってしまった!は、恥ずかしいー! このタイミングでいきなり名前で呼んで欲しいなんて、誤解されちゃわないかな…? 四方「え?あー、そうだね。今更苗字で呼ぶのもよそよそしいか」 瞳「……………………(そういう意味じゃ無いと思うんだけどなぁ。この鈍感)」ヤレヤレ 四方「なんか、瞳の目が可哀想な人を見る目になってるような…」 江向「ひ、瞳ちゃん…。あんまり触れて欲しくないような事を考えてる気が…」 そんな気の抜けた会話を交わしながら、思う。今日は色々と自己嫌悪する事もあったけど 最後にこんな展開が待っていたのなら悪くない日だったかな、なんて思ってしまって。 四方「ともかく。今日はゆっくり休んで、明日からまたよろしくね。…香」 名前で呼んでもらえて、少しは貴女に近づけたかな?なんて。 彼女の笑顔が、まるで自分の事のように嬉しくて。だから、私は改めて決意する。 江向「はいっ!いつか、四方さんみたいに頼れる人になれるように頑張りますっ!」 この胸に抱いた想いに。彼女への憧憬に誓おう。 ―――私は、私と貴女の為に貴女の笑顔を護る為に戦います。 だから貴女は自分と皆の為に、いつでも笑っていてください――― ***江向香のとある憧憬 終******** ~~~~番外編~~~~ 吉永「さぁて、今日と言う今日は痛い目を見させてあげるわ、視歩!」 焔「前回の雪辱、果たさせてもらうの!」 四方「くっくっくっ。二人掛かりかい?なら、こちらもそれ相応の覚悟で挑まないとね」 なぜこんな事になったのか…。 あの後、いきなり部屋に押しかけた焔さんと吉永さんによって外に連れ出された四方さんを 窓から身を乗り出して探す。…あ、見つけた。 開けた場所に対峙する一人と二人。既に臨戦態勢に入っているのが目に見て分かる。 そんな三人を部屋の窓から眺めながら、私は呟く。 江向「だ、大丈夫かな…、あの二人?」 瞳「…………………(心配要らない)」 瞳ちゃんのボディーランゲージから読み取るに、どうも四方さんが吉永さんを怒らせたらしく 吉永さんと焔ちゃんが手を組んでお仕置きしにきたようだ。 焔「こういう決闘の時は、技名を叫ぶのがマナーなのね!」 吉永「え゛!?技名とかある訳ないし!?」 焔「先手必勝!食らえー『フェニックスだーいぶ!!』」ゴォォ 吉永「人の話を聞いてー!」 吉永さんの非難の声も聞かずに焔さんが足を踏み出す。 …と同時に、焔さんの背中から二本の火柱が噴出し彼女は文字通り空へと舞った。 吉永「ぐっ…!とにかく、私も攻めないと!」 焔さんが上空から四方さんに狙いを定めている下では吉永さんが戦闘の為の準備を始める。 吉永(まずは、電磁レーダーを…なっ!) 次に動いたのは四方さんだった。否、動いたと言うよりは… 四方「遅い!」 吉永「は、はやっ!」 彼女は動いたというよりも、すでに動き終えた後だった。 四方(本気で蹴りあげる訳にはいかない…。意識を奪えるギリギリの威力、そして狙うべきは…!) 四方さんが攻撃へ移る予備動作を取る。だが吉永さんもただでは終わらない。 吉永(レーダーは既に起動してる!動きを読め!視歩が狙ってるのは…) ―――――「顎!!」――――― 四方『昇るカッツェ!!』 吉永「って、お前も技名あるんかーい!」 ツッコミながらも吉永さんは体を反らし、四方さんの蹴り上げをかわす。 しかし、体勢を崩した吉永さんの隙に四方さんが追撃を入れるために空中で蹴りを繰り出す。 吉永「くっ!体勢が…」 しかし、その蹴りは当たる事無く不発に終わった。 焔「私を、忘れてもらっちゃあ…困るのぉぉぉぉ!」 四方「おっと。危ない危ない」ヒラリ 四方さんが蹴りをやめ後ろに飛ぶ。そのほんの一瞬の後、 焔『フレイムぽーるっ!!』 二人が立っている場所に巨大な火柱が巻き起こる。 空中で狙いを定めていた焔さんが攻撃を仕掛けたのだ。 焔「むむむー!やっぱりこれじゃあ当たらないの!」 四方「くっくっくっ。その程度じゃあ当たってやれないな」 一方、焔さんの火柱に巻き込まれそうになった吉永さんが怒鳴り声を上げる。 吉永「焔ぁ!私に当たったらどうすんのよ!」 焔「ごめんなのー!」 舌を出しながら謝る焔さん。その下で―――― 四方「おっと、焔。余所見とは感心しないな」 体勢を立て直した四方さんが焔さんに向かって蹴りを繰り出す。 もちろん空中に居る焔さんに蹴りが届く筈も無いが、それは普通の蹴りの話だ。 吉永「焔、危ない!」 焔「分かってるの!」 空中に居る焔さんへ向かって一陣の風が向かう。それはただの風ではなく… 四方『生き別れヴィーゼル!』 四方さんが続けて蹴りを繰り出す。蹴りに乗せて放たれた真空刃は不可視の凶器と化して焔さんへ向かう―――! 焔「そんなの!当たらないの!」 焔さんはその二発の真空刃を器用に掻い潜ると四方さんに向けて突進を続けるが、 彼女は不意にバランスを崩す。 焔「あ、あれ?」グラッ 四方「残念。朱雀も翼を斬れば唯の人って事」 焔「あ、私の翼を…!」 四方さんが狙ったのは焔さんでは無く、焔さんの背中から伸びる二本の翼だった。 焔「くっ!まだなの!もう一度翼を…」 再び背中から火柱が立つ。すぐに体勢を立て直した焔さんだが… 四方「させないよ」 焔「っ!」 すでにその頭上に四方さんの踵が迫っていた。 四方(さて、この位の威力なら…) 吉永「甘いっ!」 吉永さんの能力により飛ばされた瓦礫が四方さんの脇腹を掠め、苦痛に顔を歪める。 すぐさま追い討ちをかけようとするが、四方さんは追撃を避けるために空中で後ろへと飛びのく。 四方「ぐっ!」 焔「助かったの!ありがとー芙由子さん!」 吉永「はいはい。どういたしまして」 吉永「私も今のが間に合うとは思わなかったわ。素敵なくらいに手ぇ抜かれてるわね」 焔「ちょっと頭にきたの!」 四方さん本人はあまり意識していない様だけど、最初に吉永さんへ攻撃を仕掛けた時、今の焔さんへの攻撃。 そのどちらもが微妙に甘かった。攻撃の予備動作が僅かに長かった。それ故にそのどちらもが失敗に終わっている。 理由は明らかだ。こんな遊びの様な戦いで、仲間に大怪我させる訳にはいかないからだ。 力加減に意識を割いているせいで動きに一瞬の遅れが出ているのだろう。 江向「まあ、でも普通は手加減しますよね?」 瞳「…………………(そりゃあ視歩の本気の蹴り上げなんか食らったら頭が消し飛びますし)」 江向「何か瞳ちゃんが怖い事言ってる気がする…」 瞳「…………………(どう考えても大惨事にしかなりません)」 四方「流石に、二人で来られると手こずるね」 四方(さてさて。どうしたものかな。負けたい訳では無いけどこれ以上出力上げるのは…) 焔「視歩ちゃんの馬鹿っ!手を抜くとか馬鹿にしてるの!」 ぷりぷり怒りながら焔さんが声をあげる。手を抜かれてる事が分かって拗ねてる様です。 四方「あー?いや、本気でやれる訳無いだろう?仲間に大怪我させろとでも?」 吉永「そうよ、焔。へんな煽り方しないでよ。…まあ、勝つ前提での発言は気に入らないけど」 焔「そんなんじゃ私達も本気を出せないのー」プクー 膨れる焔さん。そんな焔さんを見ながら 四方「本気ねぇ…。焔が手加減なんて器用な真似出来るとは思えないんだけど」 吉永(うん。焔は本気だったと思う。私から見てて) 焔「私達だって修羅場を潜り抜けて来てるの!甘く見ないでなの!」ビシッ 吉永「ま、そういう事!あんまり私達を舐めないことね」 そんな二人の言葉を受けて、呆れ顔だった四方さんが不意に笑顔をうかべる。 四方「あははっ!ここまで言われちゃ仕方ないね。…分かったよ。殺す気で、挑んでくるといい。 私も全力でそれに応えるだけ。それでいいんだろう?」 その瞬間、四方さんの瞳から零れだす光が紅く変わる。同時に周囲の空気がざわめき出す。 四方さんは能力の出力を上げると目が紅く光るとか何とか前に聞いた気がする。 吉永「おおう…。早速さっきの自分の発言を後悔したくなってきた」 焔「あれ…?私と前に戦った時より本気なの…あれ」 四方「さて…。君達から言い出した事だ。そう簡単に倒れないでくれよ?」 吉永「…ふん!上等よ、視歩。本気のアンタをぶちのめして初めて私達の勝利よ!」 焔「さぁ、ここからパワーアップなの!」 そこからの展開は、思っていた以上に熾烈を極めた。 再開早々に不意を突かれ焔さんが吹っ飛ばされ、しばらく吉永さんと四方さんとの一対一が続いた。 激しい攻めを繰り広げる四方さんを、レーダーと磁力で操った瓦礫や鉄板でうまく押さえ込んでいた。 しかし、それも長くは続かず次第に押され始めた吉永さんだが、そこで復帰してきた焔さんの援護を受け反撃。 不意をつかれた形の四方さんも手傷を負い、勝負は接戦となった。 そして、勝負が佳境に迫ったその瞬間、その策は発動した―――――! 四方「…は?」ピタッ その策は確かに成功した。『それ』を見た瞬間、四方さんの動きが明らかに止まった。 吉永(ほ、ほんとに成功したぁーーー!?) 焔さんが懐から取り出したのは、一抱えもある大きな、猫のぬいぐるみだった。 四方「ね、ねこ…」 一瞬の隙。それは吉永さんにとって十分過ぎるチャンスだった。 吉永「貰った!」 四方「うわぁっ!」 吉永さんの放った瓦礫が四方さんの腕にヒットすると、悲鳴をあげながら落下していく。 勝敗はほぼ決した様に見えた。だが… 焔「追い討ちなの!覚悟するのー!」 と、焔さんが掛けた追い討ちがいけなかった。 炎を纏ったその突撃は、さっきの猫のぬいぐるみを掠めて――― 四方「あ」 焔「げ」 吉永(やってしまった…) その猫のぬいぐるみは一瞬で火達磨になった。 三人とも戦う事も忘れ、地面に落ちたぬいぐるみだった『それ』に視線を移す。 急な話だがここで四方さんの趣味について話をしたいと思う。 彼女は自らでネコミミ付きのパーカーを着る程の猫好きだ。 休みの日に街のペットショップに赴けば、 普段からは想像も出来ない程にとろけた顔で猫を可愛がる四方さんを見ることが出来る。 しかし、戦いに身を置く彼女には猫を飼う事は出来ない。 代わりに彼女は猫のぬいぐるみを集めて部屋に飾っているのだ。 彼女の部屋はいまや何処をみてもぬいぐるみが目に入るほどに乙女チックルームと化している。 そんな彼女だからこそ、戦いの最中にも関わらず猫のぬいぐるみに目を奪われ隙を見せた訳だが…。 もし、その目の前でぬいぐるみを燃やすような事をすれば…? どうなるかは想像に難くない。 焔「し、視歩ちゃん…?」カタカタ 吉永「視歩…?だ、大丈夫?」 四方「………あ…」 焔「え?」 四方「ねこちゃぁぁぁぁぁん!うわぁぁぁん!」ポロポロ ガチ泣きだった。大粒の涙を流しながら、その場に座り込み泣きじゃくる。 普段の様子からは想像もつかない様子だが、なんかかわいい。 焔「し、視歩ちゃん。ご、ごめんなの…」 四方「仇は…とるからね…」 焔「え」 吉永「あっ(察し)」 四方さんの目に危ない光が灯る。あぁ、あれは駄目な目だ。 これから起きるであろう惨劇を予想して目を背ける。 四方「ねこちゃんの仇ぃーーー!」ゴオッ 全身に風を纏い、捨て身で突進する四方さんの最終奥義。 その超威力の突撃は、辺り一帯を吹き飛ばした――――― ギャーーナノー!ナンデワタシマデー! 暴風が通り過ぎた後、残ったのはノックダウンされた二人と相変わらず泣きじゃくる四方さんだけだった… 江向「あーあ。結局大惨事に…」 瞳「…………………(死人が出なかったから問題ない)」 二日後、たくさんの猫のぬいぐるみを抱えて笑顔の四方さんと、 財布の軽くなった二人が居たのはまた別の話である。 ~~~~番外編終わり~~~~
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とある学園の執事喫茶 【前説】 「そういえばアンタ一端覧祭でなにかやるの?」美琴のその問いかけに上条はまえに自販機に二千円を飲み込まれたときと同じような首の動作をした「なに?その動きは。ちゃっちゃと答えなさいよ!」放電を開始する美琴に向かって上条はぼそっとつぶやいた「……執事喫茶……そして私めは執事の役です……」とある学校のとある出し物で波乱が起こる?とある学園の執事喫茶! 【本文】 プロローグ とある学校の執事喫茶 とある旗男と女子学園 とある男女の一端覧祭 【著者】 豚遅(1-892)氏 【初出】 2010/01/12 初投稿 2010/02/27 完?
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「あー、体のあちこちが痛ぇ・・・」 「大丈夫でやんすか、荒我君?」 「まあ、何とか歩けるくらいには回復したけどな」 「おまけに荒我兄貴だけ追試だったからね。精神的にもキツかったでしょ?」 「しゃーねーよ。気が付いたら病院のベットだったしな」 今日はテスト後の休日。街中を歩くのは顔中に絆創膏が張られた荒我を筆頭とした不良組である。 先日のスキルアウトとの対決の際、荒我は結構な傷を負い、2日間の入院を余儀なくされた。 そのため、昨日の土曜日に、2日分の追試を1日中受けていたのである。 「でも、スキルアウトとのステゴロの直後に追試までこなすなんて、さすがは荒我君の根性でやんす」 「ま、まーな。何にせよ、テストも終わったし、重徳もブタ箱行きになったし。ようやく一息つけそうだ」 「そういえば荒我兄貴。重徳って奴とタイマンした時の決め手は何だったんですか?やっぱお得意の右ストレートっすか?」 「いやいや、右アッパーでやんすよね?」 「・・・そこら辺の記憶は曖昧だな。俺もギリギリだったし。何か変な大声を耳にした気はするんだが」 まさか、決め手が“速見スパイラル”だとは夢にも思わない荒我達。とそこに、もう1人の同行者が口を挟む。 「どっちにしろお前はよくやったよ、拳。相手はレベル3の能力者だったんだろ?ホント大した根性だ」 「斬山さんに褒められるなんて初めてっすよ」 その同行者―斬山千寿―は荒我の兄貴的存在であり、同じ救済委員でもある。 形としては荒我が無理矢理斬山の舎弟に入ったのだが、斬山の方も荒我の真っ直ぐさには好感触を抱いている。 「斬山さんとこうやって街中を歩くなんて初めてでやんすね」 「俺もだよ、梯君。斬山兄貴、今日は最近注目している焼肉屋に連れて行ってくれるんですよね?」 「ああ、拳にも友人ができたって聞いたんでな。親睦を深める意味合いも兼ねたりしている。 もちろんテスト明けにパーっとしたいだろうとお前等が考えてそうだなと思ったんだが、どうだ?」 「さすが斬山さん!そこに入院明けも加えて下さいよ!」 「そうだな。それも込みで」 何故この4人が集まったのかと言うと、斬山が荒我達のために色々気を利かせたのである。 やはり舎弟は可愛いということか。実は当の斬山も楽しみにしているのだ。 「あれ?あの後姿は・・・。おーい!!」 「ん?何だ?」 突然背後から女性の大声が聞こえてきた。思わず振り向く荒我。 「あー!!やっぱり!この前のラーメン屋で会った・・・あらぎゃ君!!」 「ブッッ!!お、俺は荒我だ!!あらぎゃじゃねぇぇ!!」 「あ、ご免。噛んじゃった」 「大事なトコで噛むんじゃねぇぇ!!」 「あー、もううるさいな。ちゃんと謝ったでしょう?」 「あ、皆さん。ご無沙汰です」 「おい、このカワイ子ちゃん達はお前等の知り合いか、武佐?」 「以前とある屋台で一緒にラーメンを食った風紀委員の子達っす」 「・・・風紀委員?」 「お久しぶりでやんすね。確か・・・焔火緋花ちゃんと葉原ゆかりちゃんでやんすよね」 「はい、その通りです」 「よく覚えてるねー。そういえばそちらさんはどなた?」 「・・・俺は斬山ってんだ。こいつらの・・・友達かな?」 声を掛けてきたのは以前に会った風紀委員の焔火と葉原であった。話を聞く所によると今日は非番らしく、2人で遊んでいたそうだ。 「これから荒我君達はどこへ行こうとしていたの?」 「俺達?俺達は今から斬山さんのオススメの店でパーっと食べまくろうと思ってんだけど。丁度昼時だしな。腹も減ってきた」 「そういえば、もうそんな時間か。ああ、意識したら私のお腹も~」 「緋花ちゃんってホント大食いだよね。よく太らないな~っていつも思ってるなあ」 「へへ~ん。ゆかりっち・・・私はそんじょそこらの女と一緒にしないでよ。風紀委員の仕事で毎日動き回っているんだし、 普段運動をろくそっぽしない連中とはワケが違うんだよ」 「・・・ということは、私はそんじょそこらの女と緋花ちゃんは言いたいわけですか。そうですか。フフフ・・・」 「へ?あ、いや、ち、違うって。ゆかりっちがそうとは言ってないじゃん!」 「じゃあ、どういう女なんですか?フフフ・・・」 「え、え~とね・・・」 「(相変わらずゆかりちゃんは恐いでやんすね)」 「(そうだね。彼女は怒らせないようにしないと)」 焔火と葉原のやり取りに少々の恐怖を抱く梯と武佐。やはり女は恐い。そう再認識するのであった。 「あー!ここは今流行の焼肉屋『根焼(こんじょう)』じゃないですか!」 「そうだな。実は今日はちょっとした催し物をしていてな、もうすぐ始まるんだよ」 「斬山兄貴!その催し物って何なんすか?」 荒我達に焔火と葉原を加えた6人は目的地である焼肉屋『根焼』の前にいた。『根焼』は今流行の焼肉屋で、 品質の良い肉を割安の価格で提供すると評判である。もちろん味も保証されている。 「実はな、今日はここでステーキの早食い大会が開催されるんだ」 「早食い?」 「ああ、都合3キロ、高品質のステーキを10分以内に完食した奴には懸賞金が出る」 「ま、マジっすか!?」 「ああ、マジだ。もちろん完食できなければ自腹だが、それでも他店に比べれば割安だ。どうだ、拳。挑戦してみねぇか?」 「も、もしかして今周りに集まっているのは、その挑戦者達ですか?」 葉原の疑問は当たっている。そう、今『根焼』に集まっているのは、いずれも早食い大会の挑戦者達である。 男女問わず、いずれもが秘めたる意思を持って大会に参加しようとしている。 「何とか賞金を・・・。じゃないとカツアゲのお金がもう・・・」 「ね、ねぇ莢奈。本当に挑戦するの?余りにも無謀なんじゃあ・・・」 「止めないで、月理ちゃん!!あの男どもに目にものをみせつけてやるんだから!!」 「こういう人の多い所は慣れねぇが・・・合法的に金が手に入るんだ。悪くはねぇな。少なくとも雑魚に金をせびる連中よりはよっぽどマシだ」 「このお店・・・・・・気に入るかも。・・・・・・『根焼』か・・・覚えた」 「か弱い女の子を演じるのも限界。こうなったら方針変更よ。健康的な体に私は生まれ変わる。刈谷様・・・待っていて下さいね」 「吾味・・・今日はトップ通過を狙うぜ。陸上と同じだ!2位以下は敗者も同じ!!」 「萬代・・・お前なら可能だと思うぜ。だが、今回は俺も参戦している。そう簡単に1位が取れると思うなよ」 「何か飛び入りで参加しちゃったけど・・・。まあ、無理なら残せばいいんだし。別に金に困ってないし」 「あらあら、蜂峰さん。そんな覚悟ではこの勝負、負けてしまいますわよ?それに・・・お残しは許しませんから。ホホホ」 「ねぇ、今日はステーキ食べ放題なんだよね。ボク、もうお腹がペコリング」 「食べ放題というかステーキ3キロを10分以内で完食するんだ。ちなみに私は参加しないからな」 「さーて、今日は参加者全員を応援するわよー!!ちゃんと店側の許可は取ってるからねー!!皆~ファイトー!!」 各自色んな意思を秘めている模様だ。 「な、何か殺気立ってません?そんなに皆、懸賞金が欲しいんでしょうか?」 「勝負というのは奥深いでやんす。一度勝負になったら勝つか負けるか白黒ハッキリ付けたいでやんすよ」 「それ、わかる。こうなったら私も負けてらんないな」 「えっ?緋花ちゃんも参加するの?」 焔火の参加表明に驚く武佐。それは他の面々も同様に。 「こんな光景を見たら参加せずにはいわれないわ!私の底力を参加者全員に見せ付けてあげるわ」 「・・・俺も参加するぜ。斬山さん」 「拳・・・」 「こうなったら俺だって退けるかってんだ!俺の根性を思い知らせてやる。『根焼』って名前も気に入った!この店に俺の名前を刻み付けてやる!」 「へ~、あなたも参加するのね。いいわよ、こうなったら勝負しましょ」 「いいぜ。殴り合いとまではいかねぇが、こういう勝負も悪くねぇ」 「遠慮は一切しないわよ、荒我!!」 「望む所だ、緋花!!」 「・・・何だか勝手に熱くなっちゃってますねぇ」 「でやんすね」 葉原や梯達を余所に勝手にヒートアップしていく2人。さあ、この勝負の結末や如何に。 continue…?
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【種別】 人名 【初出】 新約十二巻 【解説】 学園都市に七人しかいない超能力者の第六位、藍花悦を名乗る12歳か13歳ぐらいの小柄な少年。 茶髪のセミロングに中性的な顔立ちと服装も相まって、女子に間違われやすい容姿をしている。言ってしまえば男の娘。 誕生日は12月1日。本当は無能力者。 藍花悦の名を借りることで降りかかる火の粉を払っていたが、知り合いに超能力者が2人おり、 そもそも超能力者に匹敵(あるいは凌駕)する数多の強敵と渡り合ってきた上条に限っては超能力者というブランドが通用するはずもなく、 むしろ上条の名を聞いて本人が震え上がる事になった。 性格は気弱かつ臆病で、「女の子みたいなヤツ」と揶揄される事もあったらしい。 自身の泣き虫な一面をコンプレックスとして気にしているが、友人には 「だって、それ、裏を返せば誰の悲劇にだってきちんと涙を流す事ができるって話でしょ? ソレって別に何に恥じる事もない、立派に胸を張れる内容だと思うけど」 と評されている。 友人たるフレンダの行方を追うために、とある不良の助言を受けて藍花悦を名乗り、 彼女の秘密基地があるというダイヤノイドに乗り込む。 しかしそこでサンジェルマンの起こした事件に巻き込まれ、サンジェルマンの記憶更新により彼らの計画の要とされ接触される。 当初は上条を助けたりするなどサンジェルマンによる被害を食い止めようと行動していたが、 本当の目的であるフレンダの行方をサンジェルマンから教えられ、彼女の胴体が真っ二つに別れられた死体の映像を見せられ絶望し、精神が壊れていく。 サンジェルマンに「その物語に上条が居なかったことで、フレンダは死んだ」という甘言により復讐心を煽られて上条に復讐を決意。 能力者による魔術使用の反動を教えられずに利用される哀れな道化に仕立て上げられた。 そして上条よりフレンダの死の原因に近かった浜面と衝突し、アンの盾を用いて魔術を行使する寸前に目の前に何かが落ちるのに気が付く。 それはフレンダの本当の『遺産』である誕生日プレゼントであった。 それを見た彼は徐々に復讐心が薄れて自分の精神を元通りにしていく。 そして彼女のメッセージの「泣いて全てを許せる強さを誇れ」という言葉で本来の名前を取り戻す。 そしてフレンダの妹フレメアが到達した「無能力者の可能性は0ではなく、一人一人が自分だけの可能性を持つ」に至り、フレンダの思いを貶めたサンジェルマンへ宣戦布告し、ヒーローへ到達した。 その姿を見た上条と浜面は彼が主役と悟り、彼を護衛。 そして二人の仲間であるアイテム、インデックス、オティヌス、ステファニーも彼の元へと駆けつける。 そして上条達主人公サイドを従えるようにサンジェルマンと激突し、撃破した。 この際に彼の脇を固めていた最終的なメンバーは上条、浜面、インデックス、オティヌス、麦野、滝壺、絹旗、ステファニーの8名。 更に浜面はアネリの補助付きの運搬着を装備し、ステファニーは運搬着の残骸から作ったPDWを装備。 「嘘で塗り固めた魔術師」のサンジェルマン如きに対して、およそやり過ぎと言っても過言ではない大戦力であった。 作劇の都合上、新約12巻の大部分では「藍花悦」と表現されている。 【口調】 一人称は「ぼく」だが、激情した際には「おれ」になる。
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【種別】 種族 【初出】 二巻(存在の確認のみ) 【解説】 読んで字のごとく、血をすする怪物。 魔術サイドにおいては『カインの末裔』と呼ばれている。 しかし、その実在を確認した者はいない。それは、「遭遇した者は死ぬからだ」と伝えられる。 不確かな情報にもかかわらず存在を完全に否定されないのは、 『吸血殺し(ディープブラッド)』と呼ばれる「吸血鬼を殺す力」が実在するからである。 世間一般に知られる通り不老不死であり、吸血した相手を仲間にする能力を持つという。 生命力を魔力に変換して扱う魔術師達にとって、 「不滅の命を持つ」ということは「無限の魔力を持つ」ということと同義であり、 また、寿命による死がない以上、 『黄金練成』のように時間的制約から不可能とされる魔術すら行使できる。 実在するならそれ単体が核爆弾に匹敵する『世界の危機』であり、 それ故に普段『存在しないモノ(オカルト)』を大真面目に扱っている魔術サイドにおいても、 その実在については懐疑的に扱われている。 『吸血殺し』についての記録は英国図書館の資料に残るのみだが、 実際に能力をもつ姫神秋沙が吸血鬼に吸血された際は、 親吸血鬼・子吸血鬼共に灰に還されてしまっている。 さながら伝説にあるような怪物のイメージが言い伝えられているが、実際は人間と何も変わらない。 人と変わらず喜怒哀楽を持ち、誰かを想って行動し、誰かのために涙を流せる者達であった。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある両家の元旦物語 プロローグ 「どうすんだ?インデックス?」 「う~~~~~~っ」 目の前には、小萌先生から貰ったパンフレット。 『初日の出を見て、豪華おせち料理をたべよう 1泊2日の旅!!』とある。 上条が行くなら勿論問題なかったが、今回は正月に両親が来るとのことで、流石に同行できない。 上条の両親をとるか、おせちをとるか? 「…ごめんとうま。あたしはシスター。初日の出という聖なる光を浴びることで、一年の始まりとするよ」 「さすがシスターさんですね」 平坦な声で答えた上条に対し、シスターの口がわずかに開いた。ギラリと歯が輝く。 そんなこんなで、大晦日は上条は一人で大掃除など、のんびり過ごしていた。 寮内はがらんとしており、土御門も居なかった。 母親の上条詩菜と電話で話した内容から察するに、上条当麻は例年帰って無いらしい。 上条の不幸体質が、親戚からも疎ましがられていたせいだろうと推測できるが、 どの道記憶喪失では、親戚の集まる場には危険すぎて戻れない。 (まあ、1日ぐらいは平和な日があってもいーんじゃないですかね) 上条はひとりごちて、ぬくぬくとコタツとミカンとネコとTVの組み合わせで、一日を過ごした。 久々にベッドに手足を伸ばした体勢で目覚め、元旦を迎える。 両親とはホテルで待ち合わせて、そこで美味しいものでも食べよう、ということになっている。 「う~ん」 9ヶ月前、入学式で使用した以来と思われる、スーツとネクタイを着けてみたが…着慣れてない感アリアリである。 そもそも記憶喪失でネクタイの結び方も調べないと分からない。 詩菜が強く、一年の始まりくらいビシッと!と珍しく主張したので、やむをえずといった所である。 「ま、こんなもんかね…さてと、いきますか」 両親は前日遅くにホテルに入ったはずである。まだちょっと両親に会うのに緊張する自分に苦笑いする上条であった。 ピロリン♪ メール着信音がなり、モノレールでうつらうつらしていた上条は内容を確認する。御坂美琴からだ。 『明けましておめでとう 今年もよろしくー』 やたらシンプルだが、まあ彼女らしいとも言える。ちゃちゃっと返信し、また目を瞑る。 ホテルは結構な人出であった。 今回の上条のように、両親が来る形の家はホテルで過ごすパターンが多いようだ。 あちこちで親子が話している光景を見かける。 (えーと、2階のサロンだったよな…) 階段はどこだ、とキョロキョロしていると。 つんつん。 遠慮がちに背中をつつかれる。 振り返ると、うつむいた振袖姿の女性である。 顔はよく見えないが、、、いや、まさか? 「み、御坂か、ひょっとして?」 「なんでこんなトコにいるの?」 御坂美琴がじっと見つめてきた。 「お父さん、久しぶりっ!」 「うんうん、さすが我が娘。美しく育っておるな!」 御坂旅掛は久々の娘との対面に目を細める。 「美琴ちゃん、パパの胸に飛び込んじゃえ♪」 大晦日、学園都市のホテルにて、親子三人水入らずの再会である。 ディナーを楽しみつつ、美琴や旅掛の話は尽きることがない。 「美琴ちゃん、彼氏の話はしないの~?」 「それは…聞き捨てならん話だな」 「な、何の話よ!いないわよそんなの!」 「じゃあ百歩譲って好きな男の子の話でも」 「ええい黙れ!アイツはそんなんじゃないって言ってるでしょ!」 「アイツ…?」 「そ、アイツっていう仲の男の子がいるのよね~美琴ちゃん」 「だからちがうッてば!」 ここぞとばかり美鈴の美琴いじりが混ざりつつ、楽しい時が過ぎてゆく。 美鈴が動き出した音で、美琴は目を覚ました。元旦の朝だ。 「あら起きちゃった?明けましておめでとう美琴ちゃん」 「うん…明けましておめでとー」 「まだ寝ぼけてるとこ悪いけど、すぐ振袖着る?」 「ううん、モーニング食べてからでいいわ…」 動きやすさを求めて短パンを履くような美琴には、長時間の振袖はややツライ.。 父親のシングルルームを訪問すると、もう身なりを整えて新聞を読んでいた所だった。 このあたり、旅慣れている旅掛は洗練されている。 「お父さん、明けましておめでと」 「おお、明けましておめでとう。そろそろ下に食べに行くか」 「うん、準備できてるよ」 「あんまり食べてお腹こわさないようにね。振袖だと色々大変よ」 「うん…でも今日はおせちバイキングよ?これ食べちゃダメって拷問だわ」 普段から来てるわけではないので比較できないが、元旦のモーニングは特別仕様らしい。 「係の人に言えば、少しなら持ち帰りできるんじゃないか?」 「そうそう。ちょっとは我慢なさい。」 「はぁい。なによその普段からガツガツ食べてるような言い方…」 部屋に戻り、しばらく雑談した後、振袖の着付けを始めた。ほとんど美鈴任せである。 帯を締めて貰っている間にぼんやりと考える。 (アイツいま何してんだろ) そうだ!と新年の挨拶のメールを打つ。色々考えたが、初っ端から後悔しないよう、シンプルにした。 すぐ返事来るかなあ、と思ってると、携帯に即反応が! 『明けましておめでとう! 電気は大切にね!』 (あんにゃろう) と思いつつ、浮かんでくるニヤニヤ笑いを止められない美琴であった。 「なにニヤニヤ…さては!信じられないわ、親使ってる間にラブラブメールだなんて…」 「そんなワケないでしょ!さっさと締めてよ!」 「やれやれ、新年からアテられてやんなっちゃうわ。」 そっぽを向いて赤くなっている美琴は気づかなかった。美鈴に黒い笑みが浮かんでいたことを。 着付けが終わり、メイクもバッチリ決めて貰った。今度は美鈴が支度するということで、 「ちょっとブラブラしてくるね~」 と、ロビーまで降りて、内心(みんな見て見て~)といった期待感で、周りをみわたす。 え? 後ろ姿だが、見間違え様の無い、あのツンツン頭。 か、上条当麻が居る…美琴は一気に沸点に達した。 (なんで?なんで?) しかも正装というか、初のスーツ姿っぽい。 (と、とりあえず挨拶だけでも) 自分のカッコ、おかしくないよね?と念入りにチェックして、いざ。 背中をつついてみる。とても顔を見られない。 「み、御坂か、ひょっとして?」 「なんでこんなトコにいるの?」 美琴は、(声が震えてないかな…)と思いつつ、問いかけた。 上条当麻は息を飲んだ。 (これが御坂…か?) 普段は校則上もあるだろうがナチュラルメークであり、ボーイッシュな可愛らしさと認識していたが。 今回はメークで瑞々しさをパワーアップさせており、振袖と相まって色気まで感じさせる。 (ちょっと正視できねーな。女の子って変わりすぎだろ) 美琴は、何も答えないばかりか挙動不審になった上条を、不審そうに見つめていたが、 「え、えっと改めて。明けましておめでとう」 「あー…、明けましておめでとう」 「で、なんでココにいて、なんでそんなカッコなの?」 「いやー、親とここで会うだけだけどな。お前こそなんだよ、そのカッコ」 「わ、私は毎年、親と年末年始をここで過ごしてて…」 その時。 「あらあら~、先に会っちゃったのね~~」 上条詩菜が手を頬に当てながら現れた。 「か、母さん!」 「うふふ、明けましておめでとう、当麻さん、美琴さん」 「あ、明けましておめでとうございます」 「あけましておめでとう…じゃねーーーっ!『先に会った』てどういうことだよ!」 「あ、まっずー。もう会ってんじゃん。」 時を同じくして、ロビーに駆け下りてきた美鈴に美琴は食って掛かる。 「ア、アンタまさか…」 「偶然だと思った?美琴ちゃん」 「じゃあ…」 「そう、詩菜さんと示し合わせてね。このホテルで会ったのは偶然ではなく必然でいす。」 「な、なにやってんのよ!」 美鈴はそれには答えず、上条に手を振る。 「あっけましておめでとおー、上条くん…いや、当麻くんって呼ぶわね♪」 「あ、…明けましておめでとうございます。一体何たくらんでんすか美鈴さん」 詩菜と美鈴が合流する。 「じゃあ詩菜さん、取り敢えず、予約した部屋にいきましょうか。予定狂っちゃったけど」 「そうですね~、ウチの人呼んでこないと」 「待て待てマテーーー!無視しないで答えろーー!」 上条は母親たちに叫ぶ。 美鈴はくるっと振り向いた。 「ただのお見合いよ」 「………は?」 上条と美琴はハモった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある両家の元旦物語
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神道系の宗教的寛容さが原因で派生した多宗教・無宗教魔術師。 日本における魔術は、神道をベースとしているが、十字教や中華、インドの思想も混ざっており、体系的に分類することが出来ないものが多く、民俗信仰レベルのものも存在するため、国内には宗教や宗派が分からない魔術が氾濫している。 森羅万象に神が宿るという神道思想をベースとしながらも他の宗教の思想も取り入れ、個人や村単位で独自の理論を構築し、どこの宗教にも囚われないオリジナルの魔術を生み出す者が多い。 自ら「無宗教・多宗教」と称する者もいるが、無意識の中に神道信仰があるため、使用する魔術も神道ベースからは抜け出せない。 (仮に抜け出せたとしたら、それは魔術知識の毒性に対する宗教的知識による防護を放棄したものである) そんな宗教や宗派で分類できない彼らを“日系魔術師”と呼んでいる。 “日系魔術師”という言葉は、海外では純粋な神道系も含めて、十字教徒ではない日本人又は日系人の魔術師を総称する言葉として用いられることが多い。 尼乃昂焚 天妻岩戸 在騒吏侍 大和尊 群画雹菓 灯森麻音 藍崎多霧 加藤三戸國 黒燕 四戸 アトゥイサム
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SS自作スレまとめ@wiki とある暗部の未元物質 【本文】 序章 動き出す歯車 revenger_of_darkness 第1章 表と裏と光と影と Intersecting_speculation 第2章 破滅への使者 Heimdall -前編- -後編- 【初出】 【著者】 【含有】 【あらすじ】